「インドラネット」桐野夏生

 

著者の作品は、女性を主人公とする物語が多いが

本著は、男性を主人公とした作品である。

 

主人公は、風采の上がらない若者、八目晃(やつめあきら)。

仕事も人間関係もうまくいかず、人生を半分あきらめかけた彼のもとに

ある日、高校時代の親友であった野々宮空知(そらち)の父の訃報が舞い込むところから物語は始まる。

 

高校卒業後、音信不通となった空知を心配していた晃。

空知の父の葬儀に行けば、空知に会えるかもしれないと思っていたが

そこで晃を待っていたのは、野々宮空知の姉と妹を探しに

カンボジアに行ってほしいという不可解な依頼であった。

 

あてのないままカンボジアに向かった晃だったが

そこで、さまざまな人に出会い

さまざまな情報をつかんでいくかのように一見見える。

しかし、物事は容易に解決せず

網(ネット)のように複雑に絡み合う。

 

人との出会いが

偶然なのか、仕組まれたものなのか

 

得た情報は

実なのか、虚なのか

 

インターネットやSNSの便利なツールが

人類が生き延びるために必要な

危機を察知する動物的勘や肌感覚を鈍くさせているのではと

否応なく考えさせられた。

 

この物語を読みながら

読者は、何度も何度も

この世のあり方に絶望するにちがいない。

 

桐野作品の最後は、時に、置いてけぼりにされたような感覚に陥る。

この作品も、そうであった。

そうして、思う。

私たちは、今のこんな人間社会に、深く絶望しなければならないのだ。