「燕は戻ってこない」桐野夏生

 

桐野夏生の著作を読む前には、必ず、自分に問いかける。

今、桐野ワールドに飛び込んでも大丈夫?

 

本を開けば、瞬く間に、桐野ワールドに引きずり込まれる。

そこには、女という性、社会のひずみ、人間の欲望や心の闇がある。

普段は、意識的、無意識的に、見えないようにしていたものが

桐野ワールドに足を踏み入れれば

あっという間に目をこじ開けられ

現実を直視させられ、いろんなことを考えずにはいられなくなる。

読後、余韻は、とてつもない。

 

本作は

女性性、男性性、社会のひずみ、人間の暗部を

生殖医療という科学と倫理の葛藤をとおして

描かれている。

 

現代の生殖行為は

人間の本能と医療という科学の間で揺れ動いている。

しかし、生殖行為がどう変わろうとも

生殖の結果である妊娠出産を一身に受け入れるのは

女性だという現実は変わらない。

 

女性側の心の揺れと、男性側の心の揺れを全く異質に描いた桐野の手によって

読者はこの現実の前に立ち尽くすことになる。

 

男性にこそ、ぜひ、読んでほしい1冊だ。